昨日は居酒屋で一杯ひっかけて、ほろ酔い気分のブラブラ帰り道。
何気なしに夜空を見上げると、雲が次々体の上を通り過ぎて行くのが、瞑りかけた眼でも、はっきり確認できるほどです。
 更に、どこからともなくやって来た夜風がサッと私の体に囁き、サッと過ぎ去って行きます。何度も何度も。その残感はお酒で熱る体を、やさしくかつゆっくりと冷ましてくれます。“心地よい”という言葉はこんな時の為にあるのでしょう。
 そんな帰り道の突然の出来事です。私の目の前に脇道からスーッと若い女性が現れました。歳は二十歳もならない位。髪は当然のごとく茶髪。服はピンクと黄色のストライプ模様の肩丸出しキャミソールと、白で光沢テカテカのミニスカート。足元は歩くとカチャカチャうるさい下駄かスリッパかサンダルか理解できない履物。更に半径5メートルは届くであろう臭い香水。
 いったいこの生物は…。と思った瞬間、この女性。脇道から出てきたと思いきや、私の前方を遮るかのように目の前を歩き出すではないですか。私が歩く数メートル先には、足元からはカチャカチャ、鼻を劈く強烈な匂い、体をくねくねしながら歩く女性。いやな予感。私は“なんとしてもこの状況を避けたい”との思いでいっぱいだったのですが、そんな思いとは裏腹に女性との距離はどんどん縮まっていきます。この女性、歩くのが遅いんです。(いやいや、私の足が長いのかなぁ。)
 そうこうしている間に、ついに女性追いついてしまいました。状況打開。すぐ後ろに着いた私は、いたたまれず追い越そうと女性の脇に出ようと試みますが、道路は車の往来が激しく歩道は狭い上に途切れる事のない対向者の為、どうしても追い越せません。うずうずしながらも膠着した状態がつづき、私は次第に焦ってきました。
 すると次の瞬間、なんと女性が振り向いたのです。女性は私の存在に気づいたのでしょうか。顔はどことなく幼さが残るが化粧はまるで歌舞伎役者。一般的な派手系。…と思っていたら、つい目が遭ってしまいました。やばい。一瞬にして体が固まりました。この状態、どうしたらいい。自分から目を離すとこっちが悪く思われるし。様々な思いが頭の中をぐるぐる廻りました。
 それから1・2秒経ったでしょうか。女性はどう思ったのか遭ってしまった目を自ら振りほどき、顔を正面に振り戻しました。私は訳もなくホッとしていました。がしかし、私は未曾有の事態を迎えたのです。なんと、女性は2・3歩歩いたかと思うと、いきなり走り出すではないですか。茶髪はゆれ、カチャカチャという足音は間隔短く激しくビルに響いています。女性の小さな体はより小さくなり、私はその後姿を歩きながら呆然とみていました。
 更に女性は手早く右手を上げ、急ブレーキで止めたタクシーにサッと乗り込み、立ち去ってしまいました。もう目の前に女性の姿はありません。その間ほんの数秒。私は歩みを止めました。というより、“動かなくなった”との表現の方が適当かもしれません。 
 私は道を血管に例えるならば、血の流れに逆らい微動谷しない血栓のようなもの。いったい何が起こったのでしょうか。何故、私が周辺の人々の視線を気にしなければならないのでしょう。私は顔をキョロキョロしてみんなが誤解してないか確認したかったのですが、そんな勇気もなく、顔は動かさず目玉だけを左右に振りました。何故か汗がジワジワ。
 ほろ酔い気分のブラブラ帰り道。一転、夜空も夜風も私の体を突き刺します。しかし、めげません!明日がある!こんな事もあるさ!
 希望を胸に帰りました。